【読書の秋〜本を読もう!】⑥破産/嶽本野ばら
目次
1.嶽本野ばらさんについて
今回は嶽本野ばらさんの「破産」を読みました。
嶽本野ばらさんは、深田恭子さんと土屋アンナさんが主演した映画『下妻物語』の作者として有名な作家さんです。
かつて大阪芸大に籍を置き、演劇や音楽などもやっておられたそうで、その後、雑貨屋の店長していた時期もあるようです。
そんな嶽本さんは当初作家ではなくエッセイストとして多くのファンを獲得し、その後小説を執筆して、これまた絶大な支持を得る…という異色の経歴となっています。
その作品の内容はといいますと、ご自身の趣味や経験が反映されたものが多いような印象ですね。
2.「破産」の内容は?
本作では、主人公の小説家の破産寸前の様子が描かれています。
著書の売り上げの低迷、下げられない生活コスト…等々の理由によって、明日の生活費も困る状態になっているわけですが、その中で自分自身を見つめ直し、作家として再スタートを切るようなラストには希望を感じます。
なお、本作は東日本大震災の翌年に書かれており、その影響も色濃く感じられる内容となっています。
しかし、ただのツラい内容ではなく、悩みや葛藤を、エンターテイメントとして昇華している点が本当にすごいです。
純文学らしさと共に、ライトノベル的な要素もしっかりと反映しつつ、文壇の裏話(?)なども載っていて、すべてのページで飽きさせません。
楽しく読めますが、非常に苦労して執筆されたことが窺えます。
……実際に、2013年の嶽本さんのブログには、借金による生活苦が赤裸々に綴られています。
3.「小説の面白さ」が堪能できる!
本作『破産』のみならず、嶽本さんの諸作品には「小説を読む面白さ」ともいうべきものが凝縮されています。
こういった読書体験を提供できるのは本当にすごいことで、一読するとさらっと簡単に書けそうな気がしますが、実はこういったものを書くのが1番難しいのではないかと思います。
もちろん嶽本さんが、敬愛する太宰治のように「身を削って書いているから」ということもあります。
が、それ以上に単純に文章のレベルがとてつもなく高く器用で、小説や芸術に関する造詣が非常に深く、独自な考え方と感性を持っているからこそ、これだけ面白い作品が生まれていることを忘れてはならないでしょう。
そして、果たして嶽本さんが「コロナ/アフターコロナ」をどのように描くのか。非常に楽しみなところです。
【読書の秋〜本を読もう!】⑤笑いのカイブツ/ツチヤタカユキ
目次
1.たぶん、今年1番の衝撃作!
今回はツチヤタカユキさんの「笑いのカイブツ」を読みました。
まず、ツチヤタカユキさんを知らない方も多いことでしょう。
ツチヤさんは、大阪出身で、伝説の葉書職人として知られる人物で、『着信御礼!ケータイ大喜利』『オードリーのオールナイトニッポン』などの番組にとてつもない量の投稿をして、その多くが採用されたことで知られています。
実際にオードリーの若林さんとはプライベートでも交流を持ち、生活を共にしていた時期もあるようです。
肩書としては、元放送作家、元構成作家ということになるでしょう。
2.「笑いのカイブツ」の内容は?
この作品は、ツチヤさんの半生を題材にした私小説です。
小説なので、多少創作を入っているかと思いますが、そのおおよそが事実だとすると、本当に凄まじい人生を歩んでいることになります。
ツチヤさんは、かなり早い段階から自殺願望に近いものを持っており、自分の存在理由を確認するために、お笑い、そして投稿にのめり込みます。
そして投稿で存在感を高め、結果を残していくにもかかわらず、笑いを追求するあまり周囲とうまくコミュニケーションが取れず、どんどん孤立していくのです。
例えば、1日2000個のボケ作りを自分に課し、ひたすらそれをノートに書き殴る…そんなことを何年も何年も続けています。
友達と呼べる人間もほぼおらず、社会的立場からいえばフリーターとニートの間といったところ。
そこまで自分を追い込んで、そもそもツチヤさんは何を目指しているのか。本作を読んだ人がまず感じるのはそこではないでしょうか。
3.好きなこととは「業(ごう)」である
ツチヤさんがここまで笑いに入れ込んでいるのは、好きだからという単純な動機を超えています。もはや「業≒宿命」の次元にまで達しているのです。
ツチヤさんの行為は、厳しい修行を自らに課した修験者のようであり、自分に対しても世の中に対しても、あらゆる虚飾を許さない。
……このような生き方が正しいか間違っているのか、それは何とも言えません。
しかしこの本を読んだ人は「自らにここまでの厳しさを向けたことがあるのか」と、思わず姿勢を正したくなるのではないでしょうか。
好きになるということが、もはや業で、それを本当の意味で追求するというのは「カイブツ」になることなのかもしれません。
読んだ人の数だけ感じ方はあるかと思いますが「一読の価値はあるまぎれもない名著」と言って良いかと思います。
【読書の秋〜本を読もう!】④にごりえ/樋口一葉
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1.今回は樋口一葉!
12月に入って、本格的に冬がやってきたという感じがしますね。
樋口一葉と言えば、日本の女流作家の代表的な存在です。
5,000円札の肖像の女性なので、きっと皆さんお顔はご存知のはず。
ですが、実際に作品を読んだ方は多くないのではないでしょうか(笑)
ちなみに、お札の肖像に選ばれているにもかかわらず、当時は借金生活で苦労されたそうです…。
2.「にごりえ」の内容は?
にごりえは1895年(明治28年)に描かれ、遊女お力が、落ちぶれた男・源七と情死するまでが描かれます。
「遊女に入れ込んだために人生が破滅した男の話」ということもできますし、あるいは「自分に入れ込んで家庭崩壊した男の心中に巻き込まれた女の話」とも言えます。
内容だけで言えば、近松門左衛門とかの江戸文学とかに近いですね。
3.言葉のタイムカプセル
とにかく本作で独特なのが、セリフと地の文章が渾然一体となっていること。
初めて読む方は、それだけでページを閉じたくなるのではないでしょうか(笑)
読みにくいのですが、不思議なことに、慣れてくると逆に読みやすいんですね。
なぜかと言うと、本作では当時の遊女が実際に使っていた言葉がそのまま移しとられているから。
現在と同じで、庶民はそんなに難しい言い回しや内容の話なんかしません。
だから、なんとなく言っている事は理解できるし、その言葉をたどっていくと、まるで明治時代にタイムスリップしたような気分にさえなるのです。
……それにしても、日本の女性たちが大変なのは、昔も今も変わらないようです。
例えば100年後の女性たちが、現在の女性の書いた文章を読んで、どのように感じるのか。やっぱり未来も、女性は大変な思いをしているのか。気になりますね。
【読書の秋〜本を読もう!】③平凡/二葉亭四迷
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1.今回は二葉亭四迷!
いつの間にか12月に入ってしまいましたが、無理矢理、読書の「秋」ということで続けたいと思います(笑)
さて二葉亭四迷は、日本の近代文学を代表する作家の1人として有名ですよね。
名前の由来が、父親から勘当されて言われた「くたばってしまえ(≒ふたばていしめい)」というのも面白いですね。
(*実際は、父から言われたというのは俗説で、自分自身に対していった言葉が由来だそうです)
2.「平凡」ってどんな話?
そんな彼の代表作の1つである「平凡」を読みました。
本作では題名通り、平凡なある男の人生が包み隠さず描かれます。
今年39歳になる下級官吏が人生を振り返るのですが、幼少期に衝撃的な形で愛犬が死んだり、上京するも居候の身として肩身の狭い思いをしたり、その家の娘さんに恋をするも破れ、後に文学で生活できるようになって女性に夢中になるも、それで親の死に目を逃す…という、なかなかの内容。
平凡な人生と言えば平凡ですが、ちょっと「人間失格」にも近いテイストが感じられる作品とも言えるかもしれません。
3.「私」であることの苦しみ
本作は結構長いですし、一体どこが面白いの?と感じる方もいらっしゃることでしょう。
実は、近代文学の大きなテーマとなっているのが「私であることの苦しみ」です。
大切なものを失い、それを受け止めなければならない苦しみ。
恋をする苦しみ。
欲望の苦しみ。
取り返しのつかないことをした苦しみ。
それらがはっきりと「私」という主体に通じて描かれるようになったのが「近代文学」なのです。
そして平凡が書かれたのは1907年(明治40年)で、今から100年以上前のことなのですが、当時の人々が、今の私たちと同じ苦しみ・悩み・後悔を抱えていた事に気づかされます。
テクノロジーが進歩して、表面的に時代がいくら変わっても、私たちそのものはそう大きく変化してはいない。
その事実に対して、私たちは深く感動することになります。
本作が書かれた当時としては、その内容は平凡であったかもしれません。
しかし100年以上経過した今、その平凡さが、現在の私たちに多くの気づきをもたらしているように思えます。
密かな目標の話
現在、密かな目標を持っています。
それが何なのかという事は、願掛けのような感じで、ちょっと言えません…^^;
ただやっぱり、何かに打ち込むのはいいなあと思います。
私たちは普段、仕事や勉強、あるいは人間関係などで頑張っています。
人はただ生きているだけで、ある意味ではすでに頑張っているとも言えるのかもしれません。
けれどそれとは別に、何か打ち込めるものを見つけてみる。
すると、毎日が全く別物に見えてきます。
それは他人から見ると荒唐無稽だったり、あるいは何の意味もないものかもしれない。
他人の評価を超えたところに身を置く時間というのも、豊かなものです。
バンド、旅…など、これまで自分の興味のあることはかなりやってきたと思います。
けれど今1番、人生で何かに打ち込んでいるという気もするのです。
***
なんだか久々に、いかにもブログ、という文章を書いた気がします… (笑)
【読書の秋〜本を読もう!】②失はれる物語/乙一
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1.有名なのにノーマークだった乙一
2000年代を代表する作家の1人である乙一さん。
超有名な作家さんであるにもかかわらず、これまでノーマークでした。
世間でこんなに有名なんだから逆に読まなくていいか…みたいな変な反抗心が芽生えてしまいまして^^;
で、このたび、初めて著作を読んでみたのですが、これが非常に面白かったです!
2.失はれる物語
これは短編集で、初版が2003年ですから、デビュー間もない作品集という事ですね。
それで読み進めてみますと、妄想の携帯電話によって見知らぬ人物とつながる話、交通事故により右手以外の感覚を失った男の話、他人の傷を引き受けることができる不思議な少年の話…などなど、とにかく面白い話の目白押しでした。
このような発想は、スティーブンキングや、漫画、ライトノベルなどの影響もあるのかなと感じましたが、しっかりと違和感なく読ませる力量は相当なものだと思います!
3.余談ですが…
乙一さんの親族に、映画監督の押井守さんがいるのには驚きました!
どうやら、押井さんの娘さんとご結婚されているようですね。
小説好きなら読んでいない方の方が少ないかもしれませんが…まだ読んでいない方、そして押井さんのファンの方もぜひチェックしてみて下さい!^^
(自分も、乙一さんの他の著作をいろいろチェックしたいと思います)
【読書の秋〜本を読もう!】①機械/横光利一
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1.ごあいさつ
読書の秋ということで、最近結構本を読んでいます。
そこで、読んで感じたことを備忘録がわりに書いていこうと思います!
最近どんどん寒くなっているので、うかうかしていると「読書の秋」が終わってしまいそう…笑
2.機械/横光利一
横光利一は、明治生まれで、昭和に活躍した作家です。
小説の神様というと志賀直哉が有名ですが、実は横光利一もそう呼ばれていたんですね。
その代表作が「機械」ですが、主人公が働くネームプレート工場を舞台に、登場人物たちの心理が細やかに描かれます。そして最後の事件で、主人公はちょっと正気を失っているのかもしれません。
ほとんど改行がないのですが、読みやすく、緊張感あふれる内容となっています。
3.本作のおもしろポイント
本作では「4人称」が使用されています。
4人称って、ちょっと聞き慣れないと思います。
本作では、事件の当事者である過去の私が1人称で、現在の立場から過去の私が経験した出来事を語る「私」が4人称となります。
でもただ単にこの構造が4人称というわけではなく、ショッキングな出来事によって、私にある種の分裂が起きたからこそ、4人称が成立していると言えそうです。
「あんな不可解なことを経験したのは本当に私なのか?」…そんな、乖離の感覚なのかもしれませんね。
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江戸川乱歩なんかがお好きな方なら、きっと楽しめる作品ですよ!^^