逃げ場のない世界はどこに向かうんだろう、という話
1
トランプ大統領には今のところ明確な政策プランは無いようだ。少なくとも、公式に発表されているレベルでは。
しかし、発言の端々を総合すると、基本的には移民を制限し、あるいは排斥する方向で動くようだ。どうやら、難民受け入れにも消極的な姿勢をとると言う。これが本気で実行されると「閉じたアメリカ」が姿を現すことになる。
移民(の侵略)によって誕生した国家が、移民を受け入れなくなるということ。
大変皮肉な話だが、良くも悪くもアメリカは大きく変わっていきそうだ。
失望したり、大喜びしたりするのは時期尚早なので、当分は動向を見守るしかない。
2
本題に移る前に、今回のトランプ当選で考えたいくつかのことを簡単に書いておこうと思う。
・ 得票数だけで言えば、クリントンが勝っていたという事実。現状の選挙制度に則って行われたため覆しようはないが、正確にアメリカ国民の民意を反映した結果なのか、大きな疑問が残る。
・ 民主主義の理念はなかなか素晴らしいと思うが、何かを決定する際に用いられる「多数決」には大きな欠陥があるということ。 例えば、多数決の原理では、51対49という結果になっても、多数派の意見が通ってしまう。 しかし、落ち着いてよく考えれば、これは「ほぼ2分された状態」にも関わらず、51の方を「多数派」と呼ぶのはいかがなものかと思う。
・ 沖縄の米軍基地撤退の可能性が、近年の中では最も高い状態にあるということ。沖縄県内でもより活発に議論して頂き、日本全体でも活発に意見を交わす必要があると思う。ただし、トランプの目的は「アメリカ軍の経済的負担減」(日本、金出せ)だ。少なくとも、うまく外交をやらないと「思いやり予算」(笑)が増大してしまうだろう。
3
移民や難民を受け入れないという姿勢の背景には、テロリストへの恐怖がある。彼らが侵入するルートになることを恐れているからだ。
もちろん、中流階級以下の不満もある。自分たちが大変な思いをしているのに、彼らだけは国の制度によって、手厚い支援を受けていることが許せないというわけだ。
このような傾向はアメリカのみならず、ヨーロッパにおいても広がっている。
その結果、自国では生きていけない人々が、事実上の逃げ道をどんどん絶たれることになる。
そして、とある国では治安が悪化し、政治が過激な方向に進んだり、武力に訴えかける人も出てくるのではないだろうか。
このような流れの行き着く先として、世界がより危険な場所と化す可能性も考えられる。
…実は、これこそ「彼ら」の狙いであり、思うツボだったりするわけだ。
4
「逃げ場のない世界」(逃げるという選択肢のない世界)とは「地獄」のことである。
最悪の場所に生まれた人は、最悪の場所で一生を過ごし、苦しみ続けなければならない。
最高の場所に生まれた人は「パンがなければケーキでも食べれば?」と言って、ワインなんかを飲んでいる。
しかし、私たちの多くは「それはおかしい」という事が理解できる。
自然の掟では、それが仕方の無いことだとしても、私たちは自然の掟に逆らうことができる。
If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive.
If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.
(タフでなければ生きて行けない。
優しくなれなければ生きるに値しない。)
『プレイバック』より レイモンド・チャンドラー著
地獄に生きる人々へ馳せる想いを失ったとき、私たちは生きる値打ちを失う。
…なお、上記の引用では「タフ」と訳されることも多いが、それは、アクションスターのようなイメージを想起させる。
しかし、原文は「ハード」だ。
もっと正確に訳せば「まじめで頑なな厳しさ」というふうになるのではないだろうか。
どちらかと言えば、昔の日本やアメリカに居た「根は優しいが厳しい頑固親父」に近い感じかもしれない。
また「ジェントル」も優しいと訳されることが多く、決して間違ってはいないのだが、語源などからより正確にニュアンスを考えると「品の良い振る舞い」とでも言った方がより近いかもしれない。
上記の言葉は、全ての人間に共通する「生きるという、きれい事ではない厳しい現実」を知った上で、なおかつ「何をなすべきか」を提示しているのだ。
それではなぜ、「品の良い振る舞い」が必要なのか?
それは、単なる建前としてのポーズではなく「他者と共存する意思表示を示す振る舞い」だから、なのではないだろうか。
5.
「逃げ場のない世界」で、私たちは生きることができない。
相談できる人が1人もおらず、心を癒やす1冊の本や映画もない。
今起きているイジメや虐待の現場(学校や家庭)、過重労働を強いる会社、内紛・戦争の起きている国から、やっとの思いで飛び出したときに、自分を受け入れてくれる人・環境が何1つない。
……それが一体どういうことなのか、個々でかなり真剣に考える必要があるかもしれない。
これは、福祉制度の拡充とか、政府がなんとかしなければならないとか、そういった次元を遙かに超えた話なのだ。
誰かが始めなければならない。
他の人が協力的ではないとしても、それはあなたには関係がない。
私の助言はこうだ。
あなたが始めるべきだ。
他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく。
何度も、何度でも引用したい言葉だ。自戒の念も込めて。