バンドで食えることは99%ないけど、1度はやっといたらいいよ、という話
目次
1.音楽はタダになる
先ほどふとバンドをやっていた頃のことを思い出した。
いま30代以上の方は、バンドブームの洗礼を受けているはず。
「従来の音楽ビジネスは世界的に下降線を辿っていますが、音楽の消費や需要は増えています。けれど、音楽はどんどんタダ化が進んで、プライスがゼロに近づいてきています」。
そう語るのは、坂本龍一氏。
これって、YouTubeとかを利用している方にとっては、もはや常識。
昔のCDみたいに3,000円もかけて買うと、あまり良くなくても「良いはずだ」と自分を洗脳したり。
けれどタダ化が進むことで、たぶん、21世紀の音楽は形態やジャンルを問わず「良いものが残り、そうでないものが無くなる」という、当たり前の流れが加速すると自分は考えている。
(これまでがちょっと異常で"当たり前"ではなかったのだ)
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↑ *日本の音楽バブルについて、結構くわしく載ってます。
広告の力をもってしても、ほぼミリオンは不可能な時代。
月9に選ばれてもダメ。(というか、月9もミリオンも死語??)
ミュージシャンが継続的に音楽活動で喰っていく、というのはほぼムリ。
つまるところ、ミュージシャンは全然おいしい職業ではなくなっている。
でも一定数、甘い夢を見てバンドを続ける人がいるわけで、
自分も過去にはその一員だった。
…しかし、常につきまとう疑問。
「この人たちは、本当に音楽が好きなのか?」
「極貧に陥って、就職も逃して、人生の可能性がどんどん閉ざされていってもなお、表現したいものがあるのか?」
2.その"好き"って本物?
このような問いは、自分にも、あるいはバンドメンバーや、周りの音楽仲間にも向けられる。
「音楽が好き・表現したいものがある」
と彼らは答える。
だけど……
出てくる音にそこまでの覚悟や切実さが感じられなかったり、
完成した作品に強烈なオリジナリティもなかったり。
…つまり、成長したり、学んだり、売れるための具体的な行動を何かしているわけではなかったりすることが多いような気がする。
聞いて分かるのかって?
いやいや、自分が飛び抜けてすごい耳を持ってるとか、そういう話ではなく。
自分の耳はあくまでも一般的だけど、だからこそ、そんな普通な自分が留保なしに「CDをぜひ買いたい!」「ライブは何が何でもいく!」と思わないなら、大多数の人もそうは思わない、っていうことだ。
好きだからこそ、他人の作品も自分の作品も、ごまかしが利かない。
まがい物やいい加減な仕事がやっぱりほとんど分かってしまう。
それで、そんな作品が、例えば10年、50年、100年と残るわけがないことが分かる。
3.自分はどうしたか
ちなみに自分は
「音楽が死ぬほど好き。
好きとかキライとか、そういう言葉では収まりきらない。
無いと生きていけない。
…だからこそ、1度音楽から離れる。
そしていつか、きっと帰ってきたい。」
という結論を出して、5年以上経った…のかな?
でも本当に別の道でやってきて良かった、と思う。
社会で(働く側に対して)求められることって「好きかどうか」じゃないのです。
「得意かどうか」だけなのです。
そして、それは、まったく悲観すべきことではなく、むしろ楽しいことで、とても良いことだと思います。
……だって、料理の苦手な人のお店でご飯食べるよりも、料理が得意な人のお店で食べた方がいいに決まっている。音楽だってそれと同じだ。
4.若いミュージシャン志望者へのアドバイス
でもやりたいんだ、音楽を。
そんな人なら、じゃあ、どうするべきなのか?
何か、アドバイスできないだろうか?
バンドをやっている若い方に、いくつかの"やり方"を提案したい。
①まずメンバーがちゃんと集まるかどうか。
経験的に、半年待っても良いメンバーが集まらない場合には、今後も揃う見込みはない。
これは運がかなり大きい。
メンバーがうまく集まらなくても、なお音楽で表現したい人は「個人で音楽活動すること」を考える。
②バンドははじめの1年が勝負
バンドは5年、10年食えないのは当たり前。
しかし、現在の市場・状況を考えるとショートスパンで勝負を決めたほうがいい。
あなたのかけがえのない10代、20代を棒に振らないために。
良い思い出として残すために。
将来の可能性を閉ざさないために…。
とにかく早めにオリジナル曲を作って、CDを焼き、サイトなども作る。
できる限りライブをやる。(ただ、メンバーの都合でなかなか揃わないんだよな…)
あらゆる事務所に音源を送りまくる。ジャンル違いでも、海外の事務所でも、とにかく送りまくる。
実は「はじめから海外狙い」というのも戦略としては現実的で、悪くない。
…それで1年続けて、どこからも何らかの反応がなければ。
毎回ライブに来てくれるようなコアなファンが10人以上つかなければ。
残念だけど解散したほうがいい。
(メンバーの大半がフリーターとかの場合は特に。
学生なら、無理なく続けるのも良いかも。
あと、30過ぎて定職もなくバンド活動、とかは自殺行為なので絶対に辞めたほうがいい。家がものすごい金持ちとかならご勝手に)
自分の経験上、多くのバンドの「最初の1年」は"なんとなく"で終わる。
③なまじ、うまくいってしまった場合
これが1番怖い。
自分の友人でインディーズでそこそこ名の売れている奴(&バンド)がいるが、彼はおそらく今もフリーターだった。もう10年以上やっているにも関わらず、だ。
(友人にはとにかく頑張って、成功して欲しいが…)
バンド活動の実績・経験・年数は、社会的には何の評価にもならない。
バンドをやる方はこれを覚えておくべし。
そしてバンドとは紛れもない「営利団体」であり、本気でやるならば会社経営とほぼ同じという点も意識したほうがいい。
ちなみに、一説によると企業の10年生存率は5%以下。
そして生き残っている企業の70%以上が赤字とも。
(この辺は、税金の処理・申告の問題も絡むが、黒字の割合が少ないのはたぶん正しい)
自分的には、バンドで黒字を出している方々は、よほどのメジャーレーベルに所属しているのでも無い限り、さっさと独立&株式会社化したほうが安全だと思う。
意味不明な搾取とかも、されずに済むからね…。
***
こんなふうに本気でバンド(音楽活動)をするのはすごく大変。
実際に(少なくとも自分から見て)ムダな音楽活動で貯金100万円以上を溶かした友人、バンドメンバー全員が1年で1人50万円溶かした例、定職がありながら音楽活動のせいで慢性的な極貧&体調不良の女子など、ザラに見て来ている。
(スタジオ代、ライブ代、交通費など、音楽活動はとにかくお金がかかる)
50万円あれば、専門学校で技能を身につけることもできる。
旅行にだって行ける。
100万円あれば何か商売をはじめることもできたはずだ。
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5.バンドで食えることは99%ないけど…
バンドで食えることは99%ない。
だけど、それでも、あえて1度は経験しておくといい。
リアルな金銭感覚が身につくし、したたかな大人がいかにして純朴なキッズから搾取するか、ということがわかるので。
こういうのは、バンドをやった人間(「売る」という視点で本気で悩んだ人間)か、経営者でなければ分からないと思う。
金にはならないけど「ものすごく良い教材」ではある。
だけど深入り無用。あまりにも人生をかけ過ぎないことを、オススメしたい。
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ
(現代訳)
行きは良いですが、帰りは大変ですよ。
大変だけど、
通りなさい、通りなさい。
とおりゃんせ(童謡)