「お帰り、寅さん」の話
『男はつらいよ お帰り 寅さん』を観てきました。
寅さんといえば、山田洋次監督と渥美清さんの代表作にして、国民的映画作品の1つと言えます。
しかしながら、渥美清さんが1996年にお亡くなりになってしまったことで、1997年公開の『第49作 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』を最後に新作公開されていませんでした。
…というか事実上これが寅さんのラストだと思っていたので、まさか令和になって寅さんの新作が観られるなんて感激でした。
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さて本作のテイストは何と言うか「大人の寅さん」という感じでした。
それは、吉岡秀隆さん演じる満男くんが、当時の"おじさん(寅さん)"と同じかそれ以上の年齢となっており、泉ちゃんや桜、博、あけみさん、リリー…などが、皆相応の歳を重ねているからです。
そして、お団子屋さんだった「くるまや」はなんとカフェ(!)に生まれ変わり、それぞれが、それぞれの人生を歩んでいる…という。…なんでしょう、「時代には逆らえない」というちょっと悲しい事実の中にも、それでも、ポジティブな雰囲気が感じ取れて、良かったです。感傷だけでなく、前向きな映画だと感じました。
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本作の構造は、これまでの男はつらいよ作品の映像がふんだんにコラージュされており、総集編的な側面もあります。
ただし、話の"キモ"になっているのは、あくまでも満男。全く新しい物語として、「男はつらいよ」を初めて見た方でも、きっと不思議な感動が体験できるのではないかなと思います。
ちなみに山田監督は東京国際映画祭記者会見において「不思議なことに寅さんだけは年を取らない。そういう意味では、みんなにとっての寅さんは、マリリン・モンロ-やチャ-ルズ・チャップリンみたいなものかもしれない」と語っています。
本作において、寅さんの生死は名言されていません。
劇中、満男の妻の7回忌の法事に、寅さんは現れませんでした。
ただし(自分が見た限りでは)仏壇に寅さんの写真はありませんでした。
寅さんの不在が、かえって寅さんを際立たせる。
思えば、この映画は初めからそうでした。
自分としては、公式サイトのCASTの一番上に、渥美清さんが掲載されており、それがグッときました。
……少なくとも、「男はつらいよ」ファンならばきっと観て損はないはず。ぜひ、スクリーンで、どうぞ。
映画『パラサイト』って総合映画だよね、という話
映画『パラサイト 半地下の家族』を観ました。
ポン・ジュノ監督の作品ですが、『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』『母なる証明』などが有名で、日本でも人気がありますよね。
監督は、韓国国内で「文化芸術界のブラックリスト」に入れられていたこともあるためか、どの作品にも政治や社会に対するメッセージを感じ取ることができます。
実は本作は、韓国映画としては初となるカンヌのパルムドール(最高賞)ほか、アカデミー賞の6部門にもノミネートされたわけですが、その理由も納得です。
なぜなら本作は、非常に高い次元で実現された「総合映画」だからです。
本作はホームコメディー、災害もの、ラブストーリー、泥棒もの、ミステリー、ホラー、政治映画、前衛芸術作品…など、あらゆるジャンルの要素がありながら、話の筋を無理なく追うことができ、エンターテイメント作品に昇華されています。…それを目指した作品は多いですが、ここまでその目的に大成功している映画もなかなかないと言えるでしょう。
また、邪推ですが、同じくカンヌでパルムドールを受賞した日本映画『万引き家族』の影響もあるのかな…と、本作を見ていて感じました。
実際に下記インタビューでも『万引き家族』に触れている部分があります。
こんな傑作を作ってしまって、一体次にどんな作品を作ってくれるのか…今から期待せずにはいられません。
【虐待増加】自分は優しくなんかなかった、という話
1.
平成30年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数が過去最多を更新しました。前年度より20%近く増え、159,850件に達したそうです。
http://www.orangeribbon.jp/info/npo/2019/08/-30.php
少子化なのに件数が増えている…という事は、虐待の認知度や通報が増えているということ。中には勘違いなども含まれると思いますが、これ自体は喜ばしいことだと思います。
ただし、子どもは理由なく叫んだり、泣き止まなかったりします。それに対して「通報されるのでは…」と子育てパパ・ママが萎縮する危険性は気がかりですが、ここはなかなか難しいところです。
2.
僕らが子供だった頃(30年くらい前)は、今考えると虐待に入るような親の暴力も普通にあったし、教師の体罰もどちらかと言えば容認されているような空気でした。
大人からの暴力で、本当に必要(適切)なケースは極めて少ないと思います。個人的な経験もあり、そういったものは世界から一掃されるべきと考えています。
3.
そんな自分の理想とは裏腹に、実際に子供を持ってみて「子供を虐待する親の気持ちも分かるなあ…」と思ってしまうことがあります。
子どもは理不尽です。
今まで静かだったのに、急に泣き叫ぶ。
出がけにグズる。
……などなど、これもたまには可愛いですが、毎日となると、(そして体調不良だったりすると)たまに怒りが抑えられなくなりそうな時があります。そして、自己嫌悪したり反省したりします。
ただ、他のパパ・ママに聞くとみんな同じでした。
「夜泣きがひどくて布団に押しつけようかと思った」
「何をやっても泣き続けて気が狂いそうになった」
…こんな話はいくらでも出てきます。というか、子どもを持ったことがあるなら、きっとこれが常識でしょう。
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でも、子どもに対してイラッとしたり、声を荒げたりしても。
子どもに熱が出たりすると「健康ならもうそれだけで望むことはないじゃないか」「イラっとして、本当にゴメン」と心から思います。
親として、人間として、未熟だ…と反省し、たまに泣きたくなるときもあります。
本当に「親が子どもを成長させるのではなく、子どもが親を成長させる」のは事実だと思います。
…今、苦しんでいるパパ・ママはいらっしゃるでしょうか。でも、その苦しみは、親となった人がみんな味わっていて、あなただけじゃないから安心してと言いたいです。ダメな親なんかではない、と。限界なら、周囲の人でも、専門の機関でもいいので、 我慢せずSOSを発してみてはいかがでしょうか。あるいはブログなどのSNSで苦しみを発するだけも気持ちが整理できるし、反響がきっとあると思います。
深刻になりすぎず、ボチボチと、大人の私たちも成長していきましょう。
【冒とく?】AI美空ひばりの話【アンチ秋元康?】
1
1月19日放送のラジオ番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」にて、ミュージシャンの山下達郎さんが「(紅白歌合戦で放送されたAI美空ひばりは)冒とくです」と発言したことが話題を呼んでいるようです。
達郎さんといえばおしゃれな音楽、というイメージを抱いている方も多いと思います。けれど実は、肉体派のロックンローラーという部分が根底にある方です。
しかしながらテクノロジーに疎いというわけではなく、むしろ早い段階からコンピューターを導入してアルバムを作ったりしています。そういったものに、決して理解がないわけではありません。
そうすると、達郎さんの発言の真意は一体どこにあるのでしょうか?
2
1つには「明らかに美空ひばりさんの意思ではない言葉を語らせていること」への反発があるかと思います。
生前録音された本物メッセージならばまだしも、楽曲中にあるのは美空ひばりさんの声によって語られた「他者のメッセージ」です。それも、お涙頂戴ものの…。
達郎さんのみならず、これに気持ち悪さを感じた人は案外少なくないのでは、とも思えます。
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それからもう一つには、
「(この企画で作詞とプロデュースを担当した)秋本康さんに対する批判精神」があるのではないか、と思いました。
達郎さんはかつて、秋本康さんがプロデューサーを務めるAKB48に対して、バッサリと切り捨てています。
AKB48についてどう思いますか?
「僕の人生に必要ありません。向こうも同じだろうけど(笑)」
ーーー「チケットぴあ 山下達郎100Qインタビュー」より
さらに、朝日新聞のインタビュー「フロントランナー」においては、以下のように語っています。
CDにアイドルの握手券が付いているんじゃなくて、
握手券にCDが付いている。
手順が逆。
仮にCDが付いてなくても買うんじゃないですか。
ーーー2012年10月6日の朝日新聞のインタビュー「フロントランナー」
「AKB」と具体名は出していませんが、明らかにAKB48に対する批判です。
業界の中でも相当な音楽マニアであり、音楽が大好きであるからこそ。(達郎さんから見て)音楽を貶めるような売り方をする秋元さんに対して、反発せずにはいられないのかもしれませんね。
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ちなみに、非常に皮肉なことですが、お2人はかつてジャニーズのアイドルグループ・少年隊の名曲「湾岸スキーヤー」で、作詞&作曲という形で共演を果たしています。
その歌詞の一部を引用します。
昨日より今日よりも
素敵な場所がある
僕が君を連れてくよ
ーーー少年隊「湾岸スキーヤー」
少なくとも、お2人がファンたちを連れて行こうとしている「素敵な場所」は、それぞれに全く逆の方向であるようです。
映画『ネコナデ』を見て面白かった、という話
2018年にお亡くなりになられた大杉漣さんが出ている作品で、非常に厳しくて社内で憎まれている人事部長を演じています。
この人事部長は頑固で、ちょっとサイコパスな雰囲気もあるのですが、実は猫が好きで責任感があり…というなかなか素敵な人物です。
ブラック企業の問題、パワハラの問題、多面的な物事の見方…など、本作には様々な教訓やメッセージが込められており、考えさせられました。
良い人だからこそ、責任感があるからこそ、逆に組織ではとことんまで悪い人間・憎まれる人間にもなり得てしまう。…これは、ナチスドイツを分析したハンナ・アーレントの指摘に重なる部分があるのではないでしょうか。
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個人的には「悪い女によって破滅する男」的なプロットで、「猫によって破滅する男」というストーリーをちょっと期待したのですが…そうならなかったところに希望をつないでいるというか、日本的というか…そんなふうに感じました。
なお、ハンナ・アーレントに興味を持った方は、伝記映画がオススメです(アマゾンのプライム会員の方なら無料で見られますよ)↓
気になっていたシンセアプリを買った話
自分はもともとミュージシャン志望の人間でした。
10代の頃から様々なバンドでプレイしたし、自分で曲作りなどもしていました。とても楽しい、大切な思い出です。
でも、いろいろ思うところがあって、1度別の道を一生懸命歩むことにしました。
(過去のブログ
バンドで食えることは99%ないけど、1度はやっといたらいいよ、という話 - 30歳からのブログデビュー」では、そこに至った考え方を書いています)
がむしゃらにやってきて「とりあえず多少形になってきた」と、去年末くらいにふと感じることがありました。気づけばもう、自分で仕事をして、もう8年目に入っていたことに驚き。さらに結婚もして、元号も令和に変わり、そして2020年を迎えた今「ちょっとまた音楽をやってみようかな」という気持ちになってきました。
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そこで、自分の大好きな音楽メーカー・KORGから「ELECTRIBE Wave」という、シンセアプリが出ているのですが、先日セールで安くなっていたので購入しました。これ、前から気になっていたんですよね。
90年代ごろからリズムボックスやシンセなどが一体となった「グルーヴボックス」と呼ばれる音楽制作マシンが発売されました。「ELECTRIBE」はグルーヴボックスの代表的な機種の1つです。
時代は変わり今やアプリとしてリリースされているわけですが、かつてハードウェアを買った身からすれば「安くなったなぁ」と、しみじみ思います。(昔はバイトとして得たなけなしのお金をつぎ込んで、音楽機材を買ったものです)
…ちなみになんですが、このような機器に全く触れたことのない方には、正直おすすめできません(笑) そんな方には「KORG iKaossilator」のほうがはるかに簡単でスピーディーに曲が作れるので、こちらがおすすめです。
今後、このブログで、ELECTRIBE Waveの使い方や、作った楽曲を公開していこうと思います!
子供が生まれて何となくわかった「少子化の原因」
日本に限らず、先進諸国の少子化が止まりません。
独身時代も、少子化は自分にとって大きな関心事の1つでしたが、実際に子供が生まれてわかったことも多いです。
なぜ少子化が進んでしまうのか?
その理由はおそらく「余裕がない」という至極単純な一言で済んでしまいます。
それでは、子供を育てるための「余裕」とは一体何なのか? 自分の実体験から、以下にまとめてみます。
①金銭的余裕
「先立つものは金」と昔からよく言います。
小学校から大学まで、すべて国公立で済ませたとしても1,000万円はかかると言われているようです。これが私立に入ったり、お金のかかる部活や習い事をさせようと考えたら、一気に金額が跳ね上がるでしょう。
…というか、保育園や幼稚園に入れる段階でそれなりのお金が必要。さらに言えば出産の段階で、入院費用とか検査費用とか諸々かかりますよね。終身雇用もないこの時代に「子供1人分のお金くらい余裕で出せる」という人は、多くないのではないでしょうか。
②人的な余裕
日中、子供をベビーカーに載せたり、抱っこ紐したりして移動しているお母さんたちをよく見かけます。
小さな子供は目が離せませんから常に一緒。ご飯を作ったり洗濯をしたり掃除をしたりしながら、常に子供の様子を見なければなりません。お父さんとスケジュールが合わなければ、お母さんが健診や予防接種に連れて行くことになります。
「ちょっと1〜2時間外出したいから子供を見てて」を頼める人がいないのです。
現在は、お父さんが育休を取るケースも増えてきているようですが、基本的に「育児はお母さん中心」が日本の現状ではないかと思います。「それでもシングルマザーのつもりでがんばるわ」という気合の入った女性は…多分マイノリティーではないでしょう。
③環境的な余裕
前にやっていたNHKの番組を見て衝撃を受けました。
この番組によると「もともと人間は群れの動物であり、1人で子育てするようにはできていない」とのことです。これに反するようにコミュニティーの希薄な、核家族的な育児を強いられているからこそ、多くの女性が産後うつを発症してしまうのかもしれませんね。
簡単に言えば、女性が不安を感じずに子育てするには「味方(味方がいる環境)が必要」ということです。
待機児童問題で、保育園や幼稚園にも入れるかどうかわからない。実家を頼ることもできない。旦那も日中留守でいない。そして、電車の中や街などで、小さな子に対して無理解な人もいます。…そんな孤独な環境を想像して「子育ては無理だな」と感じる女性が増えても無理ないな、と思いますね。
ちなみに男性の育休取得率は6%程度であるそうです。トホホ…。。
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また、作家の橘玲さんによれば「日本は労働時間が長いといわれるが、単位時間あたりの生産性も低い」とのことです。
これが一体何を意味しているのか。…1つには「日本人の多くの労働者が、非効率的な労働によって疲労しているのではないか」と考えられます。
ここで大きなポイントとなるのが「個人のリソース(資源)は有限であり、その使用の効率化がないことにはプライベートの充実もない」と言うことです。
子供のいない身近なご夫婦に「仕事で疲れてしまってたまの休日しか子作りできない」という方々がいます。なんだか笑い話みたいですが、実際、1人の人間の体力には限界がありますから、結構深刻な原因かもしれませんね。
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最近、不妊治療をしたり、高齢出産を考える人は増えているようです。
女性がある程度のキャリアを積んだり、まとまった貯金ができたり…などの余裕が出るのに、かなりの時間がかかることを物語っています。しかしながら年齢を重ねるほど、母子ともに様々な危険が増しますし、そもそも自然妊娠の確率も下がってしまいます。
……このように、少子化はそれ自体だけを見てもダメで「それを取り巻く様々な問題点が密接に絡んでいる」という点が重要です。
そのためにも日本の社会、各々の会社全体が「労働者の拘束時間を最低限にして、最も効率的に仕事ができる体制」を整えることが必須ではないでしょうか。(前にこのブログで書きましたが、ベーシックインカムの導入も良い方法かと思います。ダラダラとその場にいなければいけない仕事については、本気でロボットによる代用などを考えるべき!)
自分は闇雲に「出生数を上げなければいけない」とは全く思いません。ただし、せっかくテクノロジーが発達しているので、少なくとも子供が欲しい人が普通に子供を持てるように、世の中が変わっていくことが望ましいですね。